ヒトゲノム解析センターは、国際的なデータベース (GISAID、 NCBI) に登録された新型コロナウイルスのゲノムデータを元に解析をした結果、 2021 年夏の東京五輪前に日本国内で独自に進化した AY.29 デルタ株が、20 の国や地域で確認され、少なくとも 55 の独立した株が海外に流出したことを解明しました。
新型コロナウイルス感染症が流行する中、2021 年夏に国際的な大規模イベントであるオリンピック・パラリンピックが東京にて開催されました。本大会では、ワクチン接種率の低い国・地域も含め、200 を超える国や地域から選手・大会関係者の出入国がありました。こうした大規模イベントの実施によって、新型コロナウイルスがどのような感染拡大を辿ったのかを科学的に知ることは、今後の大規模イベント等における対策の最適化に繋がります。
2021 年 7 月から 8 月にかけて、日本ではアルファ株から国内で出現した AY.29 デルタ株に置き換わり、第五波を迎えていました。この AY.29 デルタ株の動態を追ったところ、 AY.29 株はその後 20 の国や地域で確認されており、少なくとも 55 の独立した株が海外に流出したことが、公開された新型コロナウイルスゲノムの解析から判明しました。本大会以前に沖縄からアメリカ軍を経由して拡散した株など、明らかに本大会由来ではない伝播経路も確認された一方、本大会による AY.29 株の海外への拡散の寄与も否定することはできませんでした。
本研究は、 IBM Research (小山 尚彦 リサーチ・スタッフ・メンバー TJ ワトソン研究所、工藤 道治 シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー 東京基礎研究所らのグループ) と共同で行われたものです。
掲載誌: Frontiers in Microbiology オンライン版 Cross-border transmissions of the Delta substrain AY.29 during Tokyo Olympic and Paralympic Games.
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